こんにちは。PECデザイナーの重本です。

 

最近、Microsoft 365(旧Office)のアイコンが7年ぶりに刷新されたことをご存じでしょうか。

今回の更新では、各アイコンが従来のフラットなデザインから、少し立体的で、光やグラデーションを感じる表現に変わりました。

 

https://microsoft.design/articles/fluid-forms-vibrant-colors/


まるでかつてのスキューモーフィックな時代に戻ったようにも見えますが、実際にはまったく違う思想の上に立っています。
今回はこの「新しい奥行き」の背景について、少しデザインの視点から考えてみたいと思います。

 

 

■ フラットデザインは、「必要がなくなった」から、「シンプルになった」

2010年代以降、GUIデザインは一気にフラット化しました。
それまで主流だった立体的なボタンや質感表現が姿を消し、単色の面とシャープなアイコンが中心に。

 

https://www.youtube.com/watch?v=3dDCXRw56Po

 

この変化には、「立体表現を使わなくても伝わるようになった」という根本的な理由があります。

 

昔のディスプレイは解像度が低く、境界線がにじみやすいものでした。
そのため、影やグラデーションをつけて形を補い、情報を見やすくしていたのです。
また、立体的な質感はユーザーに“押せそう”“触れそう”という直感を与えるためにも有効でした。

 

やがてディスプレイの解像度が上がり、線や形がはっきり見えるようになると、
立体的な演出をしなくても十分に伝わるようになりました。
さらに、ユーザーがスマートフォンやアプリ操作に慣れたことで、
もはや物理的なリアリティで導く必要もなくなりました。

 

扱える情報量も格段に増えたことで、シンプルなフラットデザインは、
視覚的にも技術的にも合理的な選択肢となっていきます。

 

つまり、フラットデザインは「必要がなくなった」から、「シンプルになった」。
技術の進化が、デザインを自然に洗練させていったのです。

 

 

■ フラットデザインが育てた“意味で伝える”デザイン

フラットデザインが主流になってから、GUIデザインは
「見た目のリアルさ」よりも「意味のわかりやすさ」を重視する方向に進みました。

 

立体的な影やツヤがなくなったぶん、
どこに何があり、どう操作すればよいかを
配置・余白・構造で伝えるようになったのです。

 

「ボタンっぽい見た目」ではなく、「押す場所としての位置づけ」で理解させる。
これが、UI(ユーザーインターフェース)デザインの考え方を大きく変えたポイントでした。

 

フラットデザインは、装飾を削ぎ落としたというより、
“意味で伝える”デザインを育てた時代だったのだと思います。

 

 

■ 新しい立体は「情報の層」を表現する

ではなぜ、今またMicrosoftは立体的なデザインを採用したのでしょうか。
その背景には、Copilot(AIアシスタント機能)の登場が大きく関係していると感じます。

 

最近のUIは、ひとつのアプリの中で完結しません。
AIが裏で動き、アプリ同士が連携し、情報が絶えず行き来しています。
つまり、ユーザー体験の中には、目に見えない「層」や「流れ」が生まれているのです。

 

その“多層的な世界”をわかりやすくするために、
光のグラデーションや透け感で奥行きを表現している。

 

昔の立体は「リアルに見せる」ためのものでしたが、
今の立体は「つながりや流れを見せる」ためのものです。
情報がどこから来て、どこへ流れていくのかを“感じさせる”こと。
それが今回のデザイン刷新の意図なのだと思います。

 

フラットデザイン以前への単なる「回帰」ではなく、
“進化した立体表現”としての再構築と言えるでしょう。

 

 

■ デザインが持つ“深度”の時代へ

アプリやAIが連携し、情報が流動し、体験が層を持ちはじめた今、
デザインにも“深度”という新しい概念が求められています。

 

以前取り上げたAppleの「liquid-glass UI」も同じ流れの中にあります。
情報をただ並べるのではなく、層構造として理解しやすく可視化すること。
それがこれからのUIデザインにおける重要なテーマになると思います。

 

立体に戻ったのではなく、
フラットを卒業して、デザインが“奥行き”を得た。

 

これからのUIは、見た目のシンプルさの先にある
「光」と「層」で、より豊かな体験を描いていく時代へ進んでいくはずです。

 

 

サムネイル:流動的な形、鮮やかな色 – Microsoft Design


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