今回のブログを担当しますプロダクトデザイングループの堀内と申します。よろしくお願いします。
初めから私事で恐縮ですが、2年程前に男女の双子が生まれ日々育児に悪戦苦闘しています。今回は双子育児から得られた考え方で書きたいと思います。
少し前にはなるのですが、同じ双子育児をされている方が双子用ベビーカーで路線バスに乗車できなかった体験談をブログに書いたところ、様々なコメントが殺到し、いわゆる炎上騒ぎになるということがありました。
私も日常の道具として双子用ベビーカーを使用していますので、興味深く経緯を見ていたのですが、強く考えさせられるところがありました。
2006年にバリアフリー法(高齢者、障碍者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)が施行され、
その一部で公共交通事業者が講ずべき措置として、鉄道駅等の旅客施設の新設・大改良、車両の新規導入の際、この法律に基づいて定められるバリアフリー基準への適合が義務付けられました。
既存の旅客施設・車両については努力義務とされています。
双子用ベビーカーについては2018年、都営バスが双子用ベビーカーを押した母親の乗車を拒否したことが問題になり、
その後に国土交通省が2020年3月「混雑しているなど乗車が難しい場合をのぞいて、2人乗りベビーカーを折りたたまずに乗車できる」との方針を取りまとめました。
そして、東京都は2021年にルールを改定し、双子用ベビーカーについて、折りたたまずに乗車できるようにしました。
これが前提になります。
2022年11月に元バレーボール日本代表の大山加奈さんのブログにて炎上騒ぎは発生しました。
騒ぎの発端となった内容は以下になります。
大山さんが、双子用ベビーカーに双子を載せて路線バスに乗り込もうとしたところドアを開けてもらえずバスは走り去ってしまいました。
次に来たバスはドアを開けてくれたのですが、乗車の際に歩道の段差とバスのステップまで大きな溝があり、立ち往生してしまいました。
しかし、運転士はスルーして手伝ってくれなかったとのこと。
乗客の高齢者女性が手伝おうとしてくれたが、重いからと大山さん自身で何とかベビーカーごと持ち上げてバスに乗り込みました。
目的地に到着した後も歩道に段差があったが運転士は手伝ってはくれなかった。
先の高齢者女性が手を差し伸べてくれて、大山さんは何とかバスを降りることができたそうです。
この体験を大山さんはブログで
「悲しくて悔しくて…乗客の女性の優しさが沁みて…色々な感情が込み上げてきて涙腺崩壊…」
「迷惑な存在だと思われたことがやはりとても悲しくて…あのバスが走り去る光景思い出すとまた涙が出て来ます…」
などと、切ない胸中をつづりました。
大山さんの元へ、乳幼児を連れての外出の大変さに寄り添う声や、見通しの甘さを指摘する声など様々なコメントが寄せられました。
なかでも「手伝ってもらう前提で行動するな」という声が多数きたそうです。
この双子用ベビーカーでのバス乗車拒否について問題提起したことで論争が起こり、それを受けた都の交通局と意見交換会が開催されました。
意見交換会では双子用ベビーカーを利用する当事者2名とオンラインで大山さんも参加しました。
参加者によると双子用ベビーカーを折りたたまずに都営バスに乗車できるようになったことを知らない人が多いので、周知の徹底を望む意見が出されたということです。
また後日に東急バスとの意見交換会も開催され、大山さんも参加の上で、運転士たちが参加して双子用ベビーカーの乗降や車内での転回の大変さを体験したそうです。
ちなみに都営バスと東京都内の民間バス事業者などは共同で安全な乗車の手順を検証しており、方針としては「利用者からの要望があれば乗降時に乗務員がサポートする」とされています。
ここからが私の感想になるのですが、意見交換会での乗車時の姿勢はベビーカーの前タイヤを上げて乗車口に乗せていました。
この方法だと前タイヤを上げすぎてバランスを崩して後ろ方向にベビーカーが倒れる危険性があります。
乗っている子供達の姿勢も過度な上げすぎに対しては体を垂直にするか、背もたれにもたれかかるかバラバラな反応になります。
バランスの崩しやすさの一因のなると予想されます。
そもそもベビーカーや車椅子の搭乗を想定していない車両への乗車はいろいろと無理が生じやすいと思います。
そして、ベビーカーの搭乗者である子供達の側に立った想定がないことを怖く思います。
例えば、前述の方法以外にもベビーカー全体を持ち上げて乗車口に持っていく方法も考えられますが、
持ち上げるようにデザイン/設計されていないベビーカーを持ち上げようとすると持ち手を探してどうしてもベビーカーに覆いかぶさるような姿勢になります。
子供にとって知らない人が覆いかぶさってくるのは通常のことではないので何らかのリアクションがあります。
たぶんウチの子供達だと最初に固まり、次に泣き出してベビーカーから逃げ出そうと体を捩り手足をバタバタするでしょう。
双子用ベビーカーにも色々な機種があります。
横並びタイプ、縦並びタイプ、縦並びでも後ろ座席が高い位置に配置され視線を妨げないタイプ、最近ですと子供達が互いの方を向く対面タイプもあります。
機種によって違いますが、総重量も変わってきます。ウチで使っているベビーカーだと重量が13kg。
それに子供達の体重と荷物が足されます(ウチのベビーカーはカタログ値で耐荷重最大49kgでした)。
つまり最大で13kg+49kgで62kgが総重量になります(まだまだベビーカーを使い続けようと考えている私からしたらこの数値にうんざりしました)。
バスへの乗降のサポートを依頼した場合、運転士の体を心配するレベルの重量です。
更に付け加えるなら、双子と言えども体重に差がある場合もあります。
つまりベビーカーに乗った状態で左右前後の重量バランスが良い状態とも限りません。
意見交換会で強調された運転士のサポートで安全に乗り降りできるとは思えません。
ちなみにウチでは双子用ベビーカーで路線バスに乗ったことはありません。
正直なところ安全に乗り降りできる想像ができない為、移動手段としての選択肢から外れています。
子供達と安全に移動するためには、どこに行くにも移動手段を検討し、不安要素がない手段を選ぶようにしています。
付け加えるなら、運転士に限らず人のサポートが極力不要な乗降手段としてはスロープによる乗降が考えられます。
スロープでの乗り降りだったら地に足がついているので多少子供達が動いても倒れることなく安全な乗り降りが想像できますが、スロープ付きの路線バスを見かけたことがありません。
私の調べた限りだとスロープが内蔵されたバスもあるようです。
乗降口付近の底面にスロープが収納されていて、スロープ使用時に引き出します。車両の大きさが大きくなってしまうことと、車両価格が10%から30%高くなるそうなのであまり普及していないようです。
正直なところ、車椅子を利用している方が電車に乗る際に簡易的なスロープ(渡り板)を設置することがありますが、
同様のスロープを路線バスにも導入することが、双子用ベビーカー利用者(乗っている子供達も含めて)と運転士の双方の負担が少ない方法になるかと思います。
この記事を書いている時点は2023年なので、バリアフリー法施行から約17年も経過しているのに公共交通機関である路線バスではバリアフリー化できていないことが知れ渡ってしまったことになります。
また、2021年にはオリンピックと同時にパラリンピックが開催されました。
多くの車椅子利用者が開催都市の東京に訪れてもらっているタイミングにバリアフリー化が間に合わなかったことが残念に思えます。
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