ゴムやシリコンは、製品のいたるところに使われます。握るグリップ、押しボタン、肌に当たる部分。硬い部品と違って、ユーザーが直接触れて、押したり握ったりする場所を受け持つことが多い素材です。

装置の操作パネル用シリコンゴムキーパッド。キートップが並んだ状態
装置の操作部に使われるシリコンゴムのキーパッド。押したときの手応えは、この一つひとつのキーの形と肉厚で変わる。

ところが、いざ仕様を決めようとすると困ります。素材サンプルを触ればある程度の見通しは付けられても、実際の形状にすると感触は大きく変わり、事前に正確にイメージするのは困難です。どんな素材で、どの硬度が正解なのか、何を根拠に決めればいいのか。

柔らかいカバーを毎日手で押して使う、ある小さな製品の開発で同じ問題に向き合いました。そこで使った実務の段取りを整理します。

柔らかい素材で起きること硬度の数値だけでは、仕様を決めきれない

同じ硬度でも、形と厚みが変われば感触が変わる

硬度は素材の指標であって、押した感触の指標ではありません。実際の感触は、指が当たる面積、肉の厚み、たわむ範囲、戻ってくる速さで決まります。そしてその多くは、形状に左右されます。同じ硬度の材料でも、肉厚がすこし変わるだけで押した感じは別物になります。硬めの材料を選んだつもりが、カバーを薄くしたら頼りない感触になった、ということが普通に起きます。材料名と硬度を図面に書き込んだ時点では、製品の感触はまだ決まっていません。 実際の形にして、触って確かめるしかありません。

試作と量産では製法が違うので、同じ硬度でも結果がずれる

シリコンやウレタン系(TPU)など、柔らかい素材も3Dプリントで出せるようになり、試作はずいぶん速く回せるようになりました。ただしここに落とし穴があります。3Dプリントと量産の成形では、製法そのものが違います。この開発では、スペック上は3Dプリント品のほうが柔らかいはずの組み合わせなのに、押してみると成形品より硬く感じることがありました。数値が同じでも、作り方が変われば別の物になります。試作で追い込んだ感触が、量産品でそのまま再現される保証はありません。

使ううちに、感触も性能も変わっていく

ゴムには時間の問題もあります。引き出しの奥の輪ゴムが、いつの間にか伸びきって、ひび割れて切れる。あれと同じことが、製品に組み込まれたゴム部品でもゆっくり進みます。新品で最適だった押し心地や保持力が、そのまま保たれる保証はありません。交換頻度が少ない部品であれば、劣化したときの対策もあらかじめ設計に織り込んでおくと安心です。触り比べで決めた感触は、新品のときの正解でしかありません。数年使ったあとにどうなるかまで含めて仕様です。硬い部品ではあまり意識しない時間軸が、この素材では設計の条件に入ってきます。

だから、こうする感触を決める4つの段取り

1. 硬度見本で、範囲をあたる

いきなり試作はしません。まず硬度見本を触って、狙いのあたりをつけます。ここはまだ数値の世界で構いません。候補の範囲を絞るのが目的です。

2. 同じ形を、硬度違いで試作して触り比べる

あたりをつけた硬度の前後で、4種類ほど試作します。このとき変えるのは硬さだけです。形も変えてしまうと、感触の違いがどちらから来たのか分からなくなります。並べて触り比べて、人が選ぶ。数値は候補を絞るために使い、決定は感触で下す、という役割分担です。

形状側を直したいときは、逆に硬度を固定して形を振ります。一度に動かす変数は、一つにします。地味ですが、これを崩すと触り比べの結果が読めなくなります。

同じ形状で硬度だけが違うエラストマーのサンプルを、クリップでまとめて持った写真。硬さの違いで垂れ方が変わっている
同じ形状・硬度違いのエラストマー(スチレン系)サンプル。

3. 試作の繰り返しは、金型を起こす前に終わらせる

この製品では3Dプリントの試作を10数回作りました。多く見えますが、意図して開発の前半に集中させています。量産の金型が決まってからの修正は、桁が変わるほど高くつくからです。柔らかい素材は、作ってみないと分からないことが残ります。その確かめる作業は、修正が安い3Dプリントの段階で済ませておきます。

4. 量産試作でも、硬度違いを用意する

3Dプリントで感触を決めても、前述のとおり成形品では感触がずれます。そこで量産試作の段階でも、決めた硬度を出発点に、前後の硬度をもう一度並べて触り比べます。試作で決めた数値を信じて一発で作るのではなく、製法が変わった分の最終調整をここでやります。硬度を一段変えるだけなら、金型はそのままで材料側の変更で済むことが多く、形状修正よりずっと安く済みます。ずれる前提で、安く直せる調整代を残しておくのがこつです。

柔らかい素材の仕様決めは、図面に書いた数値を確かめる作業ではなく、作って押す工程そのものを設計に組み込む作業です。書いてしまえば当たり前の段取りですが、どこか一つを飛ばしたときの手戻りがいちばん大きいのが、この素材です。

ここで書いたのは、手で触れる操作部としてのゴムの話です。油を封じるシールやダイアフラムなど、機能部品として使うときはまた別の難しさがあり、機能部品編油とゴムの相性は、スペック表ではわからないにまとめました。

試作から量産へ移すときにつまずくのは、素材だけではありません。図面・サプライヤ・規格まで含めた話は医療機器に参入したい、でもノウハウがないに書きました。素材の仕様で迷っている段階なら、硬度見本を触るところからご一緒できます。相談はお問い合わせへ。