ゴム素材の難しさを、用途別に二つの記事に分けて書いています。手で触れる操作部の話は感触は、図面ではわからないに。この記事はもうひとつの顔、油を封じる、液を止める、圧力を伝える、装置の中で人目に触れず働く機能部品としてのゴムの話です。
そこでの難しさは、感触とはまた別のものでした。相手が油になった途端、ゴムは化学の問題になります。二つの不具合を例にご紹介します。
油がにじみ出る。同じ部品でも、劣化するものとしないものがある
ある装置で、内部のタンクを絶縁用の油(トランスオイル)で満たし、NBR(ニトリルゴム)製のベローフラムという膜状の部品で封じる構造を設計しました。NBRは耐油性の定番とされる合成ゴムです。それでも、油とゴムの化学的な相性が悪く、ブリードと呼ばれる劣化が起きました。ゴム内部の配合剤が表面に染み出してくる現象で、進むと封止が保てず、油がにじみ出てきます。装置の性格上、漏れは放置できず、対策は必須でした。
不可解だったのはここからです。浸漬試験(部品を液に浸けて耐性を確かめる試験)を行うと、同じスペックの部品なのに、劣化するものとしないものがある。調べていくと、製造ロットの違いによる、ごく微妙な表面性質の差に行き着きました。配合のわずかな差、練りの時間の差。要因を特定しきれないほど小さな、スペック表にはまったく表れない違いが、劣化するかしないかを分けていました。
ゴムは単一の材料ではなく、ポリマーに多数の配合剤を混ぜて練り上げた複合材料です。型番と物性値が同じでも、同じ物とは限らない。油と組み合わせたとき、その差が表に出てきます。

膨潤して染み出す。逆に、縮んで硬くなる
別の装置では、人の肌が直接当たる部分にゴムを使い、その内側を油で満たす構造がありました。万が一肌に触れても差し支えないよう、油は植物性を選んでいます。
ここで起きたのは、組み合わせによってゴムが膨潤する、つまり油を吸って膨らみ、油が染み出してくる問題です。逆の組み合わせでは、ゴムの成分が油側に抜けて縮み、硬くなることも起きました。膨らむのも縮むのも、ゴムと油のあいだで成分が行き来した結果で、どちらに転ぶかは組み合わせ次第です。こちらも浸漬試験を繰り返し、問題の出ない組み合わせを探っていくしかありませんでした。
1. 一般特性で、素材のあたりを付ける
ゴムの種類ごとの得意・不得意は整理されています。油に強いのはNBRやフッ素ゴム(FKM)、逆にEPDMや天然ゴムは鉱物油に弱い。熱、耐候性、ガス透過にもそれぞれ向き不向きがあります。まずこの一般特性で、候補の素材を絞ります。
2. SP値を比べる
次に、油とゴムそれぞれのSP値(溶解度パラメータ)を比べます。物質の溶けやすさの指標で、値が近いほど互いになじみやすく、膨潤や透過が起きやすい。遠いほど耐性があるとされます。「似た者同士はよく溶ける」という化学の原則がそのまま使える場面で、候補の組み合わせを机上でふるいにかける基準になります。
3. それでも読み切れない分は、浸漬試験で確かめる
一般特性とSP値で候補を絞っても、実際に組み合わせてどうなるかは、最後まで読み切れません。冒頭の例のように、同じ型番のロット違いですら結果が分かれることがあるからです。実際に使う油に、実際に使うゴムを浸けて確かめる。耐液性の試験方法はJIS(K 6258)にも定められており、質量や体積、硬さの変化を見ます。一発で決まる前提を持たず、試験の期間をあらかじめ開発日程に組み込んでおきます。
4. 代替品への切り替えは、新規設計なみに慎重に
注意したいのは、量産が始まったあとです。ゴム部品が生産中止になり代替品に置き換える、といった場面で「同等スペック品だから」とそのまま切り替えるのは危険です。スペック表が同じでも、メーカーや製法が変われば油との相性は別物になり得ます。実績のある組み合わせを崩すときは、新規に選ぶときと同じだけの検証を掛ける。ここを省くと、市場に出たあとで不具合が出て、ダメージが桁違いに大きくなります。
操作部のゴムは、触って確かめれば答えが出ました。機能部品のゴムは、試験してもなお読み切れない部分が残り、外したときの被害が大きい。共通するのは、スペック表を信じ切らず、現物で確かめる工程を仕様決定の中に組み込むことです。ゴムという素材と付き合う限り、ここは省けません。
油と接するゴム部品の選定や、材料切り替えの検証でお困りなら、サービス紹介や実績紹介もご覧ください。具体的なご相談はお問い合わせから承ります。