技術はある。でも、製品化のノウハウがない。独自の計測技術で医療機器への参入を目指す、ある大学発ベンチャーも、まさにその状態でした。研究で積み上げた原理は確かで、それを確かめる試作機も動いている。それでも、量産できるカタチに仕上げる工程——機械設計、試作、部品の手配——になると、社内に経験者がいない。
これは、この一社だけの話ではありません。ソフトウェアや解析、要素技術といった分野で実績があっても、そこから先の「作れるカタチにする」ところだけが、ぽっかり空いている。異業種やベンチャーが医療機器に参入するとき、共通してぶつかる壁です。
この最後のひと山は、気合いでは越えられません。図面、サプライヤ、規格、ノイズ。それぞれに専門の勘所があって、どれか一つが欠けても製品は止まります。参入を設計側から支援してきた経験をもとに、つまずきやすい場所を整理しました。
壁1:図面は「描いたら終わり」ではなく、完成させていくもの
CADで図面を描くところまでは、社内でなんとかなるかもしれません。ただ、その図面がそのまま製品になることは、まずありません。試作に出せば、加工業者から「この形状は削れない」「この公差では値段が跳ね上がる」と答えが返ってきます。素材や工法を踏まえて形を直し、また見積をとる。図面は、サプライヤとやり取りを重ねながら完成させていくものです。この往復を回せる機械設計の経験者がいないと、試作の一歩目から前に進まなくなります。
壁2:規格。安全性は「資料で示す」ところまでが設計
医療機器には、性能とは別の評価が待っています。安全性の資料では、外形や重量だけでなく、重心の位置や転倒角といったリスクアセスメントに関わる項目まで求められます。冒頭のベンチャーの案件でも、認証機関から転倒角を10度で確認するという要求があり、設計側で計算した資料を事前に用意して臨みました。

材料も同じです。ある樹脂部品にUL難燃グレード(V-0)を求められた場面では、電気系統から離れていて、仮に溶けても直接の影響がない位置にあることを示し、対象外にできないかを認証機関に提案しています。設計の中身を分かっている人間が同じテーブルにいると、こうしたやり取りが具体的に進みます。
壁3:ノイズ。電気の対策は、筐体まで跳ね返る
電気ノイズ(EMC)は、後回しにされやすい割に、あとから効いてくる壁です。どの案件でも必ず問題になるため、この案件でも当初から対策を織り込みました。配線の情報がまだない段階で、仮の配置のままでは一次側と二次側が交差したり、近づきすぎたりする恐れがあり、試験の前に配置と配線ルートを提案しています。ノイズをさらに抑える手は、先方からも出ました。二次試作では、先方の提案でFG(フレームグラウンド)用の銅板とフェライトコアを追加。部品が増えた分、それを収めるカバーの形状も変わりました。 電気の対策が、そのまま筐体の設計に跳ね返ってくる。試験で引っかかってから対処しようとすれば、設計のやり直しに近い手戻りになります。

三つの壁に共通するのは、設計の初期に織り込んでおけば大ごとにならないことです。ノウハウがないまま進めたとき、いちばん高くつく場所でもあります。
製品化のノウハウを採用や育成でゼロから揃えるには、年単位の時間がかかります。実際に多いのは、設計まわりを丸ごと外部チームに預けて走り出すやり方です。
冒頭の大学発ベンチャーの支援では、デザインから始まって、機械設計、強度検討、配線ルートの検討、一次試作・二次試作の部品手配、加工業者とのやり取り、組立確認まで、開発の実務を一続きで受け持ちました。部品リストの作成やスケジュールの提案、第三者認証機関との打合せへの同席も含みます。デザインから入るのは、見た目のためだけではなく、現場での使いやすさや、機械設計として実際に作れることまで含めて製品のカタチを決めるためです。機械設計だけでも、依頼から一次試作の組立完了まで約5か月。検討に3か月、部品の手配と組立に2か月という配分でした。
ここまでを社内に置き換えると、機械設計者、デザイナー、調達担当が必要になる計算です。参入の初期から、そのすべてをフルタイムで抱える必要はありません。技術と事業の判断は自社で握り、カタチにする実務は外のチームで回す。 医療機器に参入するときの、開発体制のひとつの組み方です。
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